(まちカドまぞく×のけもの少女同盟+αのクロスオーバーSSです、前回の記事の「2019:放課後部活見学会」の続きになります。)
・登場人物
吉田優子/シャドウミストレス優子
千代田桃
陽夏木ミカン
川居すずめ
桐原霞
クロ
セン
???
「2019:のけものまぞく同盟」
「クロさん…?その本を返してください!」
「返すよ、用件は済んだし、そもそも泥棒をする気はないしね」
私の言葉に対してクロという人ははあっさりと本をこちらに渡した。盗んだ割にはあまりにもあっさりと返してくれて逆に困惑する。
「あ、ええとありがとうございます」
「そもそも本を盗ったのは向こうよシャミ子…」
「で目的は何?答えて」
「おいちょっとこれ危なくないか」
「参ったな…やりあう気はないんだけど…」
「桃!ステッキをしまってください!ええと…クロさん?とりあえず訳を説明して…」
このままではケンカになってしまいそうだったので、桃をなだめつつ、クロさんに説明を求めようとすると、ごせんぞが声をあげた。
「シャミ子!上だ!」
「!?なんですかあれ!?」
「空が…震えてる!?」
上空を見上げると、先ほどまで晴れていた空が急に真っ黒な雲に覆われ始め、景色がブレているような、ゲームのバグのような光景が広がっていた。明らかに単なるゲリラ豪雨の類ではない。どうみても異常事態だった。
「いったいどうなっておる!?桃!何かわかるか!?」
「町の結界が何かに干渉を受けてる…!?」
「それヤバいんじゃないですか!?」
「…いや多分大丈夫なはずだよ」
クロさんは険しい顔をしながらもそう答えた。その言葉通り、空のゆがみはだんだん収まっていき、元の景色に戻った。
「…今のは何だったの?」
「魔法と結界が干渉した影響かな、あの神様の言っていた通り結界越しに召喚はできないみたいだね」
「召喚?貴方は何を知っているの?」
桃の問いかけに彼女はこう答えた。
「今のところここはまだ安全だから、また同じようなことがあるかもしれないけど、その時はよろしくね」
「どういう意味かしら?」
「文字通りの意味さ、説明したいんだけどもう時間がなくてね。悪いけど失礼するよ」
「ちょ、ちょっと待ってください!」
「この世界を頼んだよ、闇の女帝さん」
クロと名乗った少女はそう言い残すとセンという蝙蝠と共にオーロラのような歪みに飲み込まれると忽然と消えてしまった。
「なんだったのかしら…」
「魔法少女でもまぞくでもなさそうだったけど…よくわからないね」
「と、とりあえず本は無事に帰ってきました!川居先生のところに返しに行きましょう!」
保健室を覗くと、まだ川居先生は居残っていた。
「あらシャドウミストレスさん達…まだ帰ってなかったんだ。急に天気が悪くなったみたいだけど雨は大丈夫だった?」
「あ、大丈夫です。それより川居先生!これ先生の物じゃないですか」
「ああこれ!ありがとう!」
川居先生は本当にうれしそうに本を受け取ると、少し涙ぐみながら話を始めた。
「…この本はね、霞がベッドの上で書いた本なの、児童文学賞も受賞したんだけど、本人はその授賞式に出る前に旅立っちゃったの。霞が学校で過ごした時間は長くはなかったし、何でもできるわけじゃなかったの。でも彼女の夢は皆叶っちゃったし、この保健室でみんなと過ごした時間はとても大切な時間になって…」
「先生…」
「シャドウミストレスさん達も大切な友達と過ごす時間を大切にね、この時間がずっと続くとは限らないけど、確かな思い出になるはずだから。」
「…はい!」
「そういえば結局この本はどこにあったの?」
「ええと…」
正直に喋る蝙蝠に盗まれていたのを取り返して来ましたと言っても信じてもらえるわけがないので説明に困っていると…
「…?今本が光ったような」
その時、先生の持っていた本が急に光を放ち始めた。まぶしくて思わず顔を腕で覆う。光が収まるとそこには…
「…結晶?」
そこには結晶のようなものがあった。金色の台座のようなものの上に七色に輝く水晶のようなものが付いている不思議なデザインだ。
「あれ?川居先生は?」
「え?」
保健室には私と桃、ミカンさん以外には誰もいなかった。
その後学校中を探したが川居先生は見つからなかった。それどころか翌日、杏里ちゃんや小倉さん、クラスメイトの皆や先生も、誰も川居先生のことも放課後文化研究委員会のことを憶えていなかったのだ。
「…少し調べてみたんだけど、やっぱり今までこの学校に放課後文化研究会なんて部活は無かったはず」
「じゃああの先生は…」
「この結晶を手に入れてから放課後文化研究委員会や川居先生がこの学校から消えたこと、7年前に放課後文化研究会って部活があったことを誰も覚えてないことを考えると、この結晶が重要なものなのは間違いない」
「そういえばあのクロとかいう子、これを大事にしろって言ってたわね。」
「…どういうことでしょう?」
「あの時の結界の異常を考えると放っておける事態じゃないと思うが、何せ情報が少なすぎる。もう一度クロに会えればわかるかもしれないがな」
「う~~~~ん…川居先生は無事なんでしょうか…」
その日の夜…
「…およ?」
気が付くと真っ白な空間にいた。確かに寝ていたはずだが夢なのだろうか、いつもの夢の中とはまた違う感じがする。
「…誰かいる?」
空間の先に誰かが立っていた。背格好からして女の子のように見える。
「夢の中…?力を使った覚えはないんですけど…ごせんぞですか?」
「違いますよ。あなたが吉田優子さんですよね?」
「ええと…はいそうですけどあなたは?」
「えーと…せ、仙人ごはんと言います。すずめちゃん…今は先生でしたっけ、がお世話になりました。先生に関しては大丈夫なので心配しないでください。あとあの結晶なんですけど大切にしてくださいね、壊れるといろいろと大変なことになるので、しばらく預かっておいてください」
「あの…?」
矢継ぎ早に情報が飛んでくる。名乗った名前をどこかで聞いた覚えはあるのだが、思い出せない。
「霞ちゃん、今回は特別だけどあまり時間はないよ」
「そうでした、それでは最後に一つだけ…あなたには夢はありますか?」
「夢…ですか?う~~~ん…あまり考えたことはないですけど」
体が弱い間はそんなこと考える余裕はなかったし、角が生えて元気になってからは色んなことがあってよく考えたらあまり考えたことはなかった。でも…
「まぞくも魔法少女も…皆が仲良くなれたらいいなとは思ってます!」
それは千代田桜さんが私に託したことであり、大変なことだけど、今の私…いや私たちの目標だ。
「そうですか」
その少女は笑うと、こう続けた。
「あなたの周りにはいろんな人がいます。その人たちとの過ごす時間はかけがえのない大切なものになっていくはずです。元気になったのなら、夢に向かって、精いっぱい頑張ってください」
視界がぼんやりとしてきた。夢の中なのに意識が遠くなる感じがして…
「はっ!?」
気が付くと朝になっていた。何か夢を見た気が、誰かと話していた気がする。
「何だったんでしょう…あ、もうこんな時間!学校遅刻しちゃう!」
「シャミ子!余を忘れるでないぞ!」
色々思い出しそうになっていたがとりあえず遅刻はまずい。パンを咥えて家を飛び出し学校に向けて私は走り出した。
『がんばれシャミ子!夢に向かって走れるまぞくになるんだ!』
「…あれ?」
勤務中だというのにいつの間にか眠っていたらしい。夢の中で誰かと話していたような気がするが思い出せない。確か新入部員を案内していた気がするのだが、寝起きのせいかどこまでが夢でどこまでが現実なのかもあやふやになっていた。
「なんだっけ…何かを探していたような…」
机の上や引き出しを確認したが、特に無くしたものはないようだった。あの頃と同じ匂い、あの頃と同じ配置、同じ机…確認のために見渡すと、あの頃、霞がいたころと変わっていない保健室。本棚には、健康や病気に関する本に交じって、「ふしぎの国のかすみちゃん」シリーズ…霞の本が置いてある。
「失礼します、川居先生~?」
「はーい、何かな?」
生徒がやってきた。私は川居すずめ、方波見女子高等学校の新任養護教諭で、放課後文化研究会の顧問だ。あの頃の思い出の場所が、今の私の職場だ。
「…だいぶ強引だと思うけどこうするしかないのかい?」
「うん、今のところは、ごめんね損な役回り任せちゃって」
「おまえがやりゃいいと思うけどなあ、どうにかできないのか?神様なんだろ?」
「あはは…私の力はこういう守る方には向いてないんだ、壊す方なら得意なんだけど…」
「…それでその奇妙な召喚魔法を止める手段はあるのかい?」
「そもそも次元が離れすぎてて、召喚の時しか繋がらないから難しいかな…。向こう側の人に何とかしてもらうしかない。それまではなんとかあのまちの結界を利用して、世界が乱れるのを防がなくちゃならない」
「まあやれるだけのことはやってみるよ、あまり期待はしないでほしいけどね…」
次回予告
「美大…ですか?」
「トーコちゃんトーコちゃんはああああああトーコちゃんトーコちゃんトーコちゃんどこいったの!!!!!!!!!」
「桃!頭が割れてカブトムシが出てきました!」
「2019:芸術を学ぼう」
のけもの少女同盟とのクロスSSのはずなのに半分くらいクロの話になってしまった…こんなはずでは…。設定は一応考えているのですが矛盾出そうで怖いね…。次回予告の話は気が向いたら書きます。