「クソッ!今日もダメだった!」
俺は悪態をつきながら繁華街の裏路地を歩いていた、名を江九曽鮫男(えくそ さめお)という。
俺はデビルシャークを人々に見せて回り吐瀉物を吐かせ、その吐瀉物とデビルシャークの円盤により描いた魔方陣で悪魔をこの世に召喚しようとする要注意団体「悪魔万歳」の構成員だ、悪魔召喚のためにはまず円盤で布教して回る必要がある。
「このままじゃ計画が破綻してしまう…」
しかし布教活動が思うように進んでいなかったのである。
それは「悪魔万歳」の活動を止めるべく奮闘する組織「エクソシスト」がアマゾンプライムでデビルシャークの無料配信をするよう裏で糸を引いたせいで、初見の人間が激減すると共に円盤の価値が低下したためである。
円盤の普及は魔方陣の完成に不可欠であるためこれは悪魔万歳にとって非常に不味い事態であった。
「TSUTAYAの人気作の中身をすり替える作戦もそろそろ知られすぎて警戒されてきたし、いよいよ強行策を取るしかないか…」
強行策、それは上層幹部が行っていると言われる作戦で、早い話、民家に侵入してその家のテレビの録画を全て消してDVD等を盗みデビルシャークの円盤だけを置いていくやり方である。
「これ以上録画を消されたくなければこの円盤を見ろ、焼いて親族にも回せ」等の文言を添えることで効果があるものの、通報されて警察に捕まるというリスクも伴う危険な布教法である。
「しかし、やるしかない。妻と子供に逃げられ、あそこしか居場所のない俺はもう手段を選んでられないんだ…!」
「この家にするか…」
俺は1つのターゲットとする家を決めた。しばらく張り込みをして、、金城という若い男が独り暮らしをしている家があると突き止め、そこで家主が旅行に出かけるタイミングを狙ったのだ。人目につきにくく、周囲に防犯カメラもないのでここがピッタリだろうと踏んだのだ。
「!窓の鍵も空いているな、不用心だ。俺が泥棒ならたちまち無一文だぜ」
俺はそう独り言をつき、家に侵入した。
「…この家テレビがないのか?」
しばらく家の中を物色したがテレビがない。最近はテレビを見ない若者が増えているとは聞いていたがここがそうだったとは、嘆かわしいことだ。
しかし円盤再生環境が無ければ作戦が破綻してしまうので俺は焦っていた。
「ならパソコンは…無線LANがあるしどこかにあるかもしれないんだが」
「残念ですね、それはスマホ用ですよ」
「!?」
急に声をかけられて慌てて振り返った。するとそこには旅行へ出掛けたはずの金城が立っていた。
「あなたが最近私の回りを嗅ぎ回っているのはわかっていたので、わざと隙を作ったのですが、こんなに早く釣れるとは思いませんでした。」
「チイッ!」
捕まったら何もかもパーだ。俺はナイフを取り出そうとした。
「ダメですよ、ナイフなんて危ないじゃないですか」
「なっ…」
スタンガンのようなものが見えたと思った時には既に意識が遠のいていた。
「………はっ!?なっ!?」
気がつくと椅子に縛り付けられていた。身動きが取れず。暴れようとしても力が入らない。
「薬が効いてますから動けはしませんよ、耳と目さえ動いてくれればそれでいいので私は構わないんですけど」
金城はそっけなく言うとiPadを目の前に置いた。画面にはYouTubeのページが表示されている。
「俺に何をする気だ…!」
俺は得体の知れない恐怖に怯えながら問いかけた。俺はもしかしたら相手を間違えたのではないのか、こいつは俺よりもっとヤバい人物ではないのか。本能が警告信号を大音量で流していた。
「何をって…あなたもやってきたことですよ。いやあ運がいい。なかなか他人に見せる機会なんてないので困っていたんですよ」
「何の話…」
その時画面を見た鮫男の表情が凍りついた。まさか、やめろ、それはダメだ。
「King Kong vs. Jaws」
それは悪魔万歳が最も恐れる要注意団体「髑髏鮫」のシンボルであった。
「楽しい時間を過ごしましょうね」
なんでだ、なんで俺がこんな目に合う。
俺はデビルシャークを見せようとしただけなのに。