デビルシャークを見せようとしただけなのにの続きです。これで終わりです。
「ふざけんな!こんなことをしてただですむと思っているのか!」
「ただですよ、YouTubeで見れますから」
「そうじゃない!人を縛りつけてクソ映画を見せるなんて犯罪だろ!」
「不法侵入も犯罪でしょう、それであおいこじゃないですか」
ダメだ、話が通じない。
このままではキングコングvsジョーズを見せられることになってしまう。そうなれば精神が崩壊し、二度とまともな人間活動が出来なくなるだろう。デビルシャークをもっと多くの人に見せなければならないのにこんなところで俺はゲームオーバーになるわけにはいかないのだ。そのためにはこの金城とかいう男からなんとか逃げなければならない。
しかし、現実は非情だ、体に力が入らない。
もうすでに再生ボタンは押され、広告CMが流れ始めている。
「最近のYouTubeの広告は不便ですね…まあせいぜい5秒程度とはいえ地味にイライラします」
もうダメだ、俺はここまでだ。
その時である!
「シャーク!!ハウスシャーク!!」
突然扉を蹴破り何者かが侵入してきた!だがその特徴的な叫び声は覚えがある!
「間桐先輩!!どうしてここに!?」
「特に理由はない!無事か!鮫男!」
その人こそ私の先輩…いや元先輩の間桐という女性だ。元々は俺と同じデビルシャークの布教をしていたのだが、途中からハウスシャークに傾倒したため、悪魔万歳から追放された人だ。
「どうして俺を!?」
「私のハウスシャーク鑑賞会に最後まで付き合ってくれた礼だと思ってくれればいい!ここから逃げるぞ!」
言われてみればそんなこともあった、無駄に本編が二時間近くあるせいで完走がきつく、デビルシャーク定期上映会のお供としては不適切であったが、なんだかんだで私は最後まで先輩に付き合っていたのだ。
「上映会のお客様が増えましたね」
金城はあくまで冷静だ
「あいにくだが貴様の狂った趣味に付き合う気はない!」
先輩は持ってきた消火器を撒き散らすと俺を椅子から解放すると抱えて連れ出した。
「…めちゃくちゃやってくれましたねあの人」
金城は、不気味に、あくまで、冷静だった。
「先輩はなんで俺を助けたんですか?」
俺は先輩に疑問をぶつけた。
「言ってたじゃないですか、デビルシャークなんか面白くもなんともないって、こんなものを神と崇め奉るお前たちは正気じゃないって…そう言って出ていったじゃないですか」
背負われた俺の質問に先輩は答えた
「そうだな、デビルシャークは面白くなかった、時間の無駄とも言っても過言ではない。というかデビルシャークより面白い映画なんかたくさんある。だがジャンルが違いすぎるとそもそも比較にすらならない」
先輩の口調は先程と違って穏やかだった。
「だから私はハウスシャークを選んだ。デビルシャークを神と崇め奉る狂ったやつらの目を覚めさせるために」
「…わかりません。デビルシャークがナンバーワンです」
「そうだな、あのときのハウスシャーク鑑賞会の時もそう言ってた」
「じゃあなんで…」
「最後まで見てくれたからだよ、皆無駄に長いとかいって途中で出ていったからな。だがお前は最後まで見てくれた、その上で感想を話してくれた、それだけさ」
「…先輩」
「さ、とりあえずどこかに身を隠そう」
「その必要はありませんよ」
「「!?」」
振り返ると金城が立っていた
「まわりこまれたのか…!」
「このあたりの道には詳しいんですよ、家の中に閉じ籠ってる鮫なんか見てる人にはわからないでしょうかね」
金城の口調はあくまで冷静だが、どこか怒りも感じられた。
「よくも消火器なんか撒き散らしてくれましたね、おかげでiPadが壊れてしまいましたよ…」
「(先輩…)」
「(安心しろ、大丈夫だ)」
「警察だ!大人しくしろ!」
「なっ…!」
パトカーから警官達が降りてきた。かなりの数の警官がこちらに走ってくる。
「あらかじめ警察に通報してから来たのさ、証拠も録音&録画している!お前の玩具遊びもここまでだな!」
「あの…先輩…俺も不法侵入したんですけど…」
「え?」
「あの…元々あの男にデビルシャーク見せようとして…それで…」
「…………じゃあな!!」
「ちょっと!?」
そう言い残すと間桐先輩はすごい勢いで逃げた。
こうして俺と金城は仲良く捕まった。
デビルシャークを見せようとしただけなのに。